中西結合和漢薬学での外用ステロイドの考え方

アトピー性皮膚炎をはじめに、蕁麻疹や虫刺されなどあらゆるアレルギー性皮膚疾患に使用されることが多い外用ステロイド剤。

実際、アトピー性皮膚炎の方でこの薬を使ったことがない人はほとんどいないだろう。

これまで自分の中で、外用ステロイドの薬効は中医学的にどのように位置づけすることができるのかを考えてきた。

外用ステロイドは、西洋医学的には白血球の遊走を阻止し、ヒスタミン・キニンなどの炎症を引き起こすペプチドの遊離抑制や線維芽細胞増殖抑制など、数多くの作用を持ち、皮膚の炎症を抑える効果を持つ。

その主な副作用は、皮膚萎縮、毛細血管拡張、ステロイド潮紅、酒さ様皮膚炎・ステロイド紫斑・多毛、感染症の悪化などである。

まだ初心者だったころ、先輩から外用ステロイドは副腎皮質ホルモンなんだから、「腎」に帰属する薬であり、炎症を抑えるということから腎を調節する清熱作用があると教えられたりしたが、ステロイドの薬効と副作用を考えると、どうしてもその言葉をそのまま信じることができなかった。

漢方相談の中で、アトピー性皮膚炎やコリン性蕁麻疹、慢性蕁麻疹、剥脱性口唇炎、掌蹠膿庖症などの様々な皮膚疾患を経験し、そのたびに外用ステロイドを使用したことによる変化、たとえば症状が改善するケースもある一方、一気に悪化するケースがあることがわかってきた。なぜそのように個体ごとに外用ステロイドに対する反応が異なるのか、1つの推論を立てることができた。

そもそも外用ステロイドは、炎症やアレルギー反応を抑える薬であり、この「炎症」や「アレルギー反応」は、中医学における邪正闘争と考えることができる。

そして外用ステロイドは、患部に直接塗布することによって、これらの反応を消す働きから、「邪気」に対して何らかの去邪作用を有しているか、「正気」に対して何らかの作用を有しているかのどちらかの働きを持っていることは間違いない。

その中で、もし邪気に対して去邪作用があるとするならば、「炎症」・「アレルギー」という邪正闘争の中で、外用ステロイドは正気の援軍となるのだから、邪気の勢いが強い場合を除き、症状は改善、もしくは不変となるはずである。

外用ステロイドが邪気を払い、正気を立てるんだから、正気は傷られることはほとんどないはず。

しかし現実には、外用ステロイドを使うことで、例えば剥脱性口唇炎では一気に症状が悪化したりすることがあるし、副作用をみても、表皮が薄くなる、免疫力が低下し感染症を起こしやすくなる、皮膚の新陳代謝が低下し、傷の治りが遅くなるといった副作用がある。

このような現象から、外用ステロイドは、「邪気」を去邪しているのではなく、「正気」に働きかけていると考えてよいはずである。

また部位では、外用ステロイドは皮毛および肌肉層に作用することを考えると、肺脾に作用する。そしてこの肺脾を循環し、防衛機能を有している正気を考えると、その正体は「衛気」となる。

これらのことから、外用ステロイドは、主に塗布した部位の「衛気の量」を減少させ、邪正闘争を抑制する働きを有しているのではないだろうか?と考えたわけである。

このとき、邪気の勢いが強くない場合は、激しい邪正闘争ではないため衛気をコントロールすることによって、その闘争を終結させ、あとは自然に回復するのを待つ。邪気の勢いが強く、邪正闘争が激しい場合には、衛気を強力にコントロールしなければならないため、より強力な外用ステロイドを使ったり、継続的に塗布する必要が出てくる。

その様な場合には邪気は自然に消失しないため、外用ステロイドを塗布した後、しばらく時間が経って衛気が回復してくると再び激しい邪正闘争が起こるため、症状がぶり返すという現象が起こる。

そのため定期的に外用ステロイドを塗布して、衛気をコントロールする必要が出てくる。

外用ステロイドでよく問題になるリバウンド現象は、継続的な塗布により衛気の力が相当弱くなっている状況があるにもかかわらず、邪気が依然としてそこに停滞し続けるため、外用ステロイドを中止した途端、一気に邪正闘争が始まることから生じると考える。

副作用では、衛気の量が減少するため、防衛力が低下し、免疫力が落ちるし、塗布している患部では正気不足が生じて肌肉が痩せ、真皮の毛細血管が透けて見える酒さが起こるし、肌の再生も抑制される。

またその影響が「腎」にまで及ぶため、真皮層にある毛細血管が委縮したりする。
これらのことから、中正医結合和漢薬学では、外用ステロイドは、塗布した部位における「衛気の量」をコントロールすることによって、正気と邪気の邪正闘争を起こさせないようにしている薬と結論付けた。

外用ステロイドの使用は、邪気をコントロールしているのではなく、正気をコントロールしていることから、正気不足による様々な副作用が生じる可能性が高く、副作用を防止するためには、いかに正気を傷らない様にするかを考え、外用ステロイドの使用部位、強さ、塗布の頻度などを総合的に考えながら、ときには皮毛・肌肉層の正気をバックアップする漢方を用いる必要がでてくる。