中西医結合和漢薬学によるアトピー性皮膚炎の実際

現代は、気密性の高い居住環境、排気ガスなどの化学物質がそこら中に蔓延し、それらが皮膚や上気道粘膜に付着すること、または糖質が中心の食生活、冷飲食過多、食事時間の乱れ、運動不足などにより体内に余計な汚れを蓄えたりすることで体内毒素が充満し、それらが原因でアレルギー反応が生じ、結果的にアトピー性皮膚炎となる。

これらの要因から、アトピー性皮膚炎の漢方療法を考えた場合、内外の毒(風熱・風湿・湿熱・寒湿など)の介在および影響を念頭に置く必要があるものと考える。

アトピー性皮膚炎の病因病機

日本人のアトピ-性皮膚炎は主に外的環境由来の風寒湿(熱)邪と内的環境(主に脾胃)由来の湿熱が主となり、それらが皮毛・肌肉層に影響を及ぼし、多彩な皮膚症状を呈すると考えてよい。

また湿熱由来ではなく、冷飲食や運動不足、遺伝的要因により脾・腎陽虚を呈する場合には、身体内部の冷えが原因となって体内の血流が乏しくなり、行き場を失った血液が皮膚付近に集まり、皮膚表面での血液の鬱滞が生じる。この身体内外の血流格差と寒熱落差によって皮膚表面で炎症やアレルギー反応が起こり、結果的に湿熱と同じようなアトピー性皮膚炎に発展していくことがある。

外的環境由来の風寒湿(熱)邪の場合には、『傷寒論』・『金匱要略』・『温病学』の考え方に基づき、それらの邪を駆逐する方剤を皮膚症状から適切に選択し使用することが必須となり、内的環境由来の湿熱邪の場合には、脾胃あるいは肝胆の湿熱を是正する茵陳蒿湯や竜胆瀉肝湯をベースにし、肝臓の解毒機能を強化し、体内に蔓延している湿熱邪を駆逐し、血液をクリーニングすることが必要になってくる。またもう1つの解毒器官である腎臓の機能を強化し、湿熱邪を駆逐する必要がある場合には猪苓湯もしくは五淋散などをベースにする必要がある。

これらの邪は、内外に関わらず、邪が停滞している部位の気機を阻害するため、二次的病因を生じることが多く、それにより皮毛を主る「肺」、肌肉を主る「脾」の層において気血津液の正常な運行が妨げられ、気滞・水滞・血瘀が生じる。これらの二次的病因がさらなる病態を招き、その比重によって非常に多彩な病態へと発展し、複雑化していく。

最終的には、どんな病態であれ、脾肺を巡る衛気の循環不良を引き起こし、それによってさらなる邪の侵襲を許し、皮膚の過敏性を増大させ、アトピックスキンが形成されていく。

発病要因

  1. 脾肺を中心とした衛気の循環不良により、免疫機能が異常を起こし、外的環境(ハウスダスト・ダニ・排気ガス・花粉など)に対してアレルギー反応を起こす。このとき衛気と風寒湿(熱)痺との間に邪正闘争が起こり、それが痒みや皮膚の破壊に結び付く。
  2. 飲食不節(食生活の乱れ・暴飲暴食・甘味や冷飲食の過食など)や精神的ストレスによって体内に湿熱邪が発生し、湿熱邪が出口を求めて皮毛・肌肉層の腠理(汗腺)に集まることで邪正闘争が生じ、それが原因で痒みや皮膚破壊を生じる。

    脾胃湿熱が根本原因となる場合には、食生活をあらためると同時に脾胃に停滞している湿熱を駆除する必要があり、食生活の改善は必須項目となる。脾胃湿熱体質のものが六淫の邪気を感受したり、ストレスや生活習慣の乱れからさらなる内生五邪を作ると病因が複雑になり、治療に相当の時間がかかるようになる。

  3. 遺伝的要因により湿熱体質を持って生まれてきたり、湿熱を排出する機能が弱かったりすることで湿熱邪が皮毛・肌肉層に蓄積して邪正闘争が生じることによって発症する。
  4. 体質的に冷え症であり、体内に冷えがこもり、そのために体表に血液が充満し、身体内外の血流格差および寒熱落差によってアレルギー反応が起こり発症する。

基本的にアトピー性皮膚炎では、1~4の病態が単独もしくは複合的に重複するため、実際には各個人によって大きく病因が異なるという特徴を持ち、さらにそれぞれの病因に対して漢方薬を組み合わせ、適切な配合量となるように工夫し、その時々の皮膚環境の変化に合わせて微調節を行わなければならない。

この微調節こそが術者の腕の見せ所であり、最終的には各相談者が自分自身でうまく調節できるようになることが理想的な漢方療法につながる。


中西医結合和漢薬学よるアトピー性皮膚炎の漢方療法

各人によって病因が大きく異なり、複雑化している中で、漢方療法を実践する場合、「病名漢方」による治療ではすぐに限界が訪れる。
中医学の本場である中国では意外とアトピー性皮膚炎の患者は少ない。したがってこの疾患を治療するための情報が案外乏しく、中医学のみで対応することは非常に難しい。そのようなことから中医学と日本漢方の立場から、この疾患の根本原因を明らかにし、そこに西洋医学的な生理・解剖・病理・薬学の知識を上手に反映させることによって、効率の良い漢方療法が実現できると考えている。

具体的には、アトピー性皮膚炎を引き起こしている原因は1つではなく、複数に及んでいることが多いため、それら1つ1つの問題を解決する必要がある。
そのため、まずは初回相談から短いスパン(1週間単位)で漢方相談を繰り返しながら、使用した漢方薬の効果および反応を確認しながら、徐々に病因が潜んでいる病位を特定していき、それぞれの病位における正気と邪の性質・量を明らかにしていく。
その際には、特に皮膚所見を重視するが、それのみならず全体的な体調・二便の状態・体力などの問診内容や舌診・脈診など、あらゆる情報を包括して適切に判断していく必要がある。

またアトピー性皮膚炎では、特に皮膚症状が増悪する条件、緩解する条件(たとえば季節による変化、時間による変化、気候による変化、食事、運動、入浴、環境、寒暖差、精神的ストレスなど)、を詳細に分析し、それらがパターン化できるのか否か、症状の変化の波の大きさ・程度などから、気血津液の流通障害の比重を見極めていき、病因の改善とともに理気・活血・利湿、もしくは補気・補血・滋陰などを組み合わせていき、最終的に五臓六腑およびそれらが帰属する経絡の気血津液の循環を調えることによってアトピー性皮膚炎の改善を目指していく。

アトピー性皮膚炎に対し、弁証論治によって処方した漢方を服用することで得られる変化が他の疾患に比べ非常に早いという印象がある。ようするに漢方に対してとても敏感に反応する人たちが多いのである。このような特徴から、アトピー性皮膚炎の場合には、初回相談時から数日~7日間単位で漢方相談を繰り返し、その中で得られた変化をもとに漢方の微調節を行って根本原因を改善していく。

病因の根本原因が改善できれば、症状の変化の波は小さくなり、皮膚の状態が比較的安定するため、そこから徐々に漢方相談の期間を長く(14日~28日)し、さらなる安定を図っていく。最終的には、漢方薬の調節ができるようにアドバイスしていきながら自分自身で自己調節できるようにする。

内外の問題を明らかにすることの重要性

アトピー性皮膚炎の原因が身体の中にあるのか、外にあるのかということを明らかにすることがアトピー性皮膚炎の漢方療法の基本となる。

アトピー性皮膚炎では、よく茵陳蒿湯や補中益気湯が使用されているが、これらはすべて内側の問題によるものに対応する。

たとえば茵陳蒿湯では、肝臓の解毒機能が低下し、血分の汚れを気分に持ち上げ、大便・小便から抜くことができず、血分の汚れが血中に残存し、それが汗から抜けようとして皮膚表面にたまり、その汚れによって免疫が活性化しアレルギー反応を引き起こす。

補中益気湯では、気虚によって皮膚表面の防御力や免疫力が異常を起こしたり、皮膚の新陳代謝が低下したり、皮膚表面まで血液を送り込むパワーがなかったりするため、皮膚表面が傷んでバリア機能が低下し、アレルギー物質の侵入を許して症状を引き起こす。

一方、外的環境から起こる問題に関しては、気候や季節、寒温の落差やハウスダストなど自然環境の変化によって症状が悪化する場合などを想像すればわかりやすい。
たとえば夏の暑さが皮膚の毛細血管に影響し、気分熱が血分に影響して血熱を生じさせ、その血熱によって炎症が起こり、爆発的なアレルギー症状を起こしたり、環境(主に空気や花粉、ハウスダストなど)の変化によって皮膚表層が反応しアレルギーを起こす。(ちなみに喘息や花粉症の場合は皮膚と表裏をなす粘膜でそれらを感受するために起こるアレルギー症状とみなす。)

これら外的環境の影響によって悪化する場合に、いくら内的環境の問題を改善する漢方を使っても、全然効果が出ない。外的環境による悪化の場合には、外感表証の概念を応用し、たとえば『傷寒論雑病論』や『温病条弁』にあるような外感の際に用いる方剤を使うことで症状を緩和させることができる。

病位でいえば、肺の経絡、つまり肺の営衛の循環という面での気血津液の盈虚通滞およびそれを生じさせている邪の性質を考えて方剤を選択することが必須となる。
逆に内の問題でアトピー性皮膚炎が生じているのに外感表証に用いる方剤を使っても全然効かない。

これらのことからアトピー性皮膚炎の漢方の治療戦略において、その症状が外感なのか内傷なのかを弁別することが非常に重要になるということであり、それを間違えると全然治らないばかりか、壊病となることもあるので慎重に検討しなければならない。

細菌感染や合併症について

たとえ皮膚の状態が漢方療法によって安定していても、季節の変化、仕事や風邪によって一時的に体調を崩し、免疫力が低下したりすることがある。そのような場合には、一時的に痒みが強くなって掻破してしまい皮膚環境が悪化したりすることもある。

このような場合には、通常いつも使用している漢方やステロイドを状況に合わせてレスキュー的に用い、その状態からの離脱を図ることをセオリーとしている。
しかし中には予想以上に免疫力が低下し、細菌の二次感染を引き起こしてしまうことがある。特に夏場などは細菌やウイルスが繁殖しやすい高温多湿の環境となることから注意が必要になってくる。

仮に細菌の二次感染が起こって皮膚環境がボロボロになったり、化膿したりした場合には、漢方単独での治癒は非常に難しいため、受診勧告を行い西洋医学的な治療を最優先する。

特に小児の場合、親の知識不足で肌汁を細菌感染とは思わず、入浴させることは肌の状態を悪化させるという間違った認識から、着替えや入浴を疎かにし、皮膚環境をさらに悪化させてしまうことがある。細菌による二次感染が生じた場合には頻繁に着替えをさせて、入浴や清浄綿などでこまめに拭き、皮膚環境を改善することが大切である。

さらに夏場にはアトピー性皮膚炎以外の皮膚疾患が併存することも少なくなく、汗疹やカポジ水痘様発疹症などを伴うことがある。これらをアトピー性皮膚炎と一緒くたに考えて悪化したと判断をしている場合もあるので常に皮膚症状を確認しながら、正しく判断することが求められる。

食養生

当店では、食養生については内的環境(脾胃)由来のアトピー性皮膚炎でない限り、口酸っぱく指導することはしていない。
食事については、糖分は痒みの原因、脂質は炎症の原因として考えており、内的環境由来の場合は、糖質制限・良質な脂質の摂取(オメガ3系)を推奨している。

また寝ている間に患部をかきむしったりすることが多い人の中には、夕食の時間が非常に遅く、食後数時間で就寝したりすることで、睡眠中に消化が行われ、そのために血中に湿熱が発生し、さらに消化管運動に伴う体温上昇によって体表に血液が集まり、それがさらなる熱を呼んで痒みにつながっているケースもあるため、そのような場合には夕食の時間を早くするか、食事量を減らすか、食後から就寝までの時間を最低4時間は空けるようにするといった指導を行っている。

当店では、実際に様々な食養生を自ら実践したが、徹底した食養生が数か月にも及ぶと、そのストレスは尋常ではなくなる。それくらい食養生は大変なのである。アトピー性皮膚炎を治療するための養生自体がストレスとなり、それが反って症状の悪化を招くこともあるので、これらの養生は、きちんと行うべき時と緩めるときを上手に活用して行うべきである。