アトピー性皮膚炎の漢方療法例

① 外的環境由来の風寒湿(熱)邪におけるアトピー性皮膚炎の漢方療法

20代の女性では内的環境由来による脾胃および肝胆の湿熱が原因でアトピー性皮膚炎が悪化していると考え、冬の時期は竜胆瀉肝湯ベースの漢方で皮膚の赤みや熱感、痒みを一定コントロールできていたのだが、3月に入った途端、皮膚の痒み・乾燥などの症状が悪化し始めた。
これらの悪化の要因がどこにあるのかを突き止めるため、皮膚環境を改めて確認したところ、熱感が皮膚の極めて浅い位置にあることがわかり、その熱のために皮毛の津液が蒸発し乾燥し、熱と乾燥によってバリア機能が低下した結果、アレルギー物質に反応しやすくなって症状が悪化しているのではないかと考察した。

また症状の増悪緩解因子では、午後4時頃から悪化し始め、疲労・食事・入浴・運動など内的環境が変化する条件では悪化しないということから、肝胆・脾胃の湿熱を調節する必要はなく、午後4時からの症状悪化を日哺所潮熱とし、その熱の正体は3月という季節の変化や花粉などによって外的環境由来の風寒湿(熱)邪が肺経絡の熱~陽明経証を発症させ、それらの熱によって皮膚の熱感・痒み・乾燥が悪化したと考え、白虎加人参湯に変方し事なきを得た。

また別の40代の女性では、自宅周囲の工事が始まった途端に皮膚の赤み・腫れ・熱感・痒みが酷くなり、皮膚環境が一気に悪化したということから、これらの悪化は解体工事による化学物質の飛散やホコリなど外的由来の風湿熱邪により肺熱が加重されているとして、麻黄・石膏の薬対を利用し、越婢加朮湯を使用し、症状の軽減を図った。

いずれのケースも外的環境の変化をモロに受ける肺を意識した処方であり、外邪に対する過剰なアレルギー反応および炎症を抑制する目的で使用し、良好な結果を得た。しかしながら根本的な体質を改善するためには、それらの邪に過剰に反応しないようにするため、衛気虚や気滞をより意識しなければならない。


② 内的環境由来・外的環境由来が混合している場合の漢方療法

10歳の女児のケースでは、極度のドライスキンおよび肘窩・膝窩の痒み、臀部・背部の痒みがあった。地元の漢方薬局や漢方クリニックからは、それらの症状に対し、消風散や茵陳蒿湯、六味丸、黄連解毒湯、温清飲など、(風)湿熱に対しての方剤が多数処方されていたが、一向に改善する気配がなかったため、遠方にもかかわらず当店に相談に訪れた。

これらの症状や舌診・脈診から病因・病位・正気と邪気の質・量を分析したところ、他の専門家が処方された方剤は、あながち間違っているとは思えない肝胆・脾胃を中心とした湿熱タイプであると判断した。

しかしそれらの邪を駆逐する漢方薬は既に服用しており、それでは改善しないということは明らかなことから、さらなる原因があるはずだということでもう一歩踏み込んで考察することにした。

そこで閃いたのがこの女児の場合、内的環境の問題ばかりに着目しても埒が明かないことから、外的環境による症状の悪化もあるのではと考え、内的環境由来の湿熱に対しては、竜胆瀉肝湯を主薬とし、清熱理気活血を強化する目的で雲南片玉金を加味した。

さらに外的環境由来の問題に対しては、花粉やハウスダストが風湿熱邪となって、アレルギー反応を生じていると考え、越婢加朮湯に桔梗石膏を加味。

それぞれの清熱によって傷陰することを恐れ、六味丸を少量加えて処方を組み立てた。

さらに痒みというストレスから、体液が酸化すると漢方の吸収率や利用率に大きな影響を与えてしまうため、イオン化カルシウム製剤を用いて体液を弱アルカリ性にするようにした。
イオン化カルシウムを加えた理由は、体液が酸性かアルカリ性かというのは漢方療法を行う上で非常に大きな問題となり、体液のpHによって血液中に溶存する漢方の有効成分の比率が変わってしまう。したがって体液のpHは漢方の効果に著しい影響を及ぼすからである。

この考えに基づいて内外の問題にアプローチしつつ、漢方の利用率を高めるためにイオン化カルシウム製剤を使用したところ、症状は劇的に改善。

現在では、1年を通して処方を変更しなくとも、症状はかなり安定し、ほぼ掻くこともなくなり、アトピー性皮膚炎とは思えないきれいな肌になってくれている。

このように内外の問題点(外的環境による症状の変化や食事・運動・入浴・睡眠など)から、アトピー性皮膚炎の根本的な原因が内にあるのか、外にあるのかを弁別し、その性質を明らかにしてから処方を組み立てていく戦略は、漢方によるアトピー性皮膚炎の治療の根幹となる。


③ 内的環境由来、気虚血瘀に対する漢方療法

20代の男性で幼少期からアトピー性皮膚炎に悩んでおり、いろいろと試すもうまくいかず。
風貌は見るからに華奢で、食が細く、傷の治りが遅い、傷跡が残りやすい、すぐに疲れるなどから明らかに脾胃気虚が原因であることが理解できる。
さらに気虚のため、皮膚の新陳代謝が停滞するので、患部では老廃物が残り、それが瘀血化して色素沈着を生じている。

これらの分析から、この男性は脾胃を中心とした気虚血瘀によって皮膚の新陳代謝が悪く、老廃物が蓄積し、その老廃物がアレルギー反応を起こし、痒み、乾燥を生じさせていると判断。

これらの弁証から脾気虚の基本処方である補中益気湯を用い、患部で生じている瘀血停滞とそれに伴う鬱熱に対して、冠心Ⅱ号方および雲南片玉金を用いて、活血・理気清熱を行うことにした。

これらの方剤を使用することにより、遺伝的体質である華奢・食が細いという側面にはあまり変化がみられないものの、肌の調子は改善し、痒みもなく、比較的快適に過ごすことができるようになった。


④ 腎陽虚による虚陽上浮(真寒仮熱)に対する漢方療法

20代の女性の場合、幼少期よりアトピー体質であったが、成人してからは比較的症状は落ち着いていたとのこと。それがどうしたことか、ここ数年で一気に症状が悪化。

皮膚症状は、顔面部・前胸部をはじめ、全身的に極端な赤みがあり、患部は浮腫んでところどころに肌汁あり、また逆に乾燥して皮膚がゴワゴワになっている。そして皮膚表面は極端に熱い。

このような場合には、ステロイドを使用するのがセオリーなのだが、本人はあまり使いたがらない。

この症状が本当に炎症で熱証なのであれば、その熱の出所を探り当て、竜胆瀉肝湯や茵陳蒿湯、黄連解毒湯などの清熱剤を用いる必要があるのだが、彼女の場合、他の漢方薬局で清営顆粒や温清飲が処方されていたにもかかわらずあまり症状が改善しなかった。

これらの情報を元に、さらに皮膚所見を探ると、意外と身体中が赤いにもかかわらず、指先が極端に白く、爪甲も色抜けが酷かった点が気にかかった。実際に触ってみると、やはり夏前なのに極端に冷たい。

この所見は陽気が四肢に巡っていない可能性を示唆している。この可能性の真偽を確かめるべく、舌診を行うとやはり「淡白舌」であった。

これらの情報から、この女性は腎陽虚をベースとした「虚陽上浮」による真寒仮熱で「炎症」を呈していると判断し、火神派理論を応用し、八味地黄丸・桂枝加竜骨牡蠣湯をベースにし、温補と潜陽を主体とした漢方療法を行った。

その結果、症状は徐々に好転に向かい、現時点では赤みはほぼ消失。皮膚の状態も当初とは比べ物にならないくらい綺麗になった。


⑤ 気営両燔が原因となって急激な悪化を見せた場合の漢方療法

40代の女性の場合、他院にて鍼灸治療を行っていたものの、その治療が合わず、漢方に救いを求めて約3年前から当店で漢方療法を行っていた。

この女性は、舌診と皮膚所見が全く合致しない特殊なタイプで適切な方剤を見つけるまで四苦八苦したが、結局、アトピー性皮膚炎が起こっている原因は外的環境由来によるアレルギー反応であることがわかり、この反応をうまくコントロールすれば、症状が治まると考えて荊芥連翹湯をベースとした処方にすることで症状は安定して良好な状態を保っていた。

しかしながら夏(6月中旬:ちょうど夏至のころ)に急激に症状が悪化。

症状が悪化した原因は全く不明であり、当店に来られる前には毎年同じ時期に同様の悪化を繰り返していたという。

状態は、顔面から前胸部にかけて、毛細血管が充血し、紅斑を生じ、毛細血管の充血から患部には強い熱感があった。また毛細血管の拡張から血漿液が漏れ出したためか、患部全体にむくみが生じ、掻破によって肌汁の漏出が起こっていた。

この状況に対し、急激な症状の悪化は、夏特有の気温上昇・湿度の上昇・強烈な紫外線などに起因する湿熱邪によって気分のみならず、血分にまでその影響が及び、気営両燔を起こしたものと考え、「夏季・温熱によって悪化する皮膚疾患」という消風散の適応と合致することから、消風散をベースにした漢方に切り替えた。

消風散は血熱から毛細血管が充血し、そこから血漿が漏れて細胞外液が増え、浮腫を起こし、血分と気分の熱から二次的に風(痒み)が起こったために生じた皮膚疾患に対応する方剤であることから、とにかく急性的炎症を鎮めることを最優先とし、血分の熱を清することを主とし、気分熱・三焦の水滞は従として、消風散+三物黄芩湯+牡丹皮・芍薬をベースにした方剤を使用した。

そうしたところ症状は、約1か月で症状は元の状態にまで落ち着いた。